―韓国のニューメディア[1]を中心に―
韓国のジャーナリズム地形に急激な変化がおきている。続く保守政権の登場で代案メディアが増え、モバイルプラットホームの拡張でメディアの利用形態も大きく変わっている。この変化を批判的に眺める学者は、「権威主義的商業主義メディア時代」と規定する。 ニューメディア市場の拡張でメディア産業は量的に膨張したが、メディアから得る市民の恩恵は大きく減っているという評価である[2]。一部の言論学者を中心にメディア公共性フォーラムが結成されるほど、公営放送をはじめとするメディアの公共性衰退は明瞭に見える[3]。
メディアの技術発達が大衆の日常に入り込み、どの時よりも華麗にメディアの恩恵を受ける時期だと考えるとき、公共圏が荒廃した事実をどのように説明しなければならないだろうか。2014年4月に発生したセウォル号事件の遺族は、公営放送の歪曲報道に抗議してKBSに進入しようとした。KBSが応じないので大統領がいる大統領府へ向かった。翌朝、KBS社長が出てきて真実の報道をすると約束した後に解散することが起こった。遺族は自分たちを代議するメディアがないと嘆いた。むしろ、財閥であるサムスンと密接な関連がある中央日報が運営するケーブルチャネルのjTBCを最大限信頼し、遺族が持っていたすべての情報をjTBC側に渡した[4]。メディアは豊富になったが、大衆は代議を受けることができないとし鬱憤を溜めている。
日本でマスコミを「マスゴミ」と卑下するように、韓国では記者を「キレギ[5]」と称して軽べつする。以前からジャーナリストに与えられる悪いあだ名があったが「キレギ」は最悪だといえる。伝統的にニュース、時事プログラムに関する限り最も信頼を受けた公営放送MBCは、呪いに近い評価を受けている[6]。信頼する媒体を尋ねる世論調査で、ニュースを生産せずに伝達するばかりであるインターネットのポータルサイトの名前が上がったりもする。 KBSが相変らず最も信頼を受ける媒体と認められるが(2013年調査38.7%)、先立って説明した遺族の抗議訪問などに照らしてみれば、他の選択肢がなく選択した結果でもある。
これ以上の信頼度下落に耐えられなかったジャーナリストは、公営放送を中心に言論に対する政治的介入に対して強力に抵抗した。公営放送MBCは、2012年1月30日から7月17日まで170日間にかけてストライキをした。KBS,YTN(ニュース専門ケーブルチャネル)も同時ストライキを行った。政権が選択した天下り人事によって放送局の社長が決まることに抗議し、放送の政治的独立性を確保しようと抵抗した。だが、これらのストライキは成功しなかった。抗議を受けた側では、そんなことがないということを見せるために、ストライキした側を処罰した。処罰は一種のアリバイづくりのために避けられない。最後まで抗議した側は懲戒を受け、変化の可能性がないと考えたジャーナリストは自発的に放送局を辞めた。解雇記者、局内の人事で不利益にあった人が辞職し、その数は増え始めた。
大衆は彼らの抵抗を積極的に支持して(キャンドルデモ、抗議訪問などで)積極的に支援した。だが望んだ結果は出てこなかった。大衆には選択肢が二つあった。冷笑してメディアに対する期待を捨てることが一つ目だ。李明博政権以後、メディアのこのような状態に慣れていた大衆は大きい期待をしなかった。大衆が介入できる二番目は、独立的で代案的なメディアを設立することだった。もちろん、最初の選択肢を選んで、ジャーナリストを「キレギ」と呼んで諦める方法もあったが、以前よりは容易に代案メディアを作ることができる良い実例を基盤とした動きがあった。2011年4月から2012年12月まで間に存在した代案メディアに注目した。では、2011年4月にいったいどんなことがあったのだろうか。
インターネットのパロディ新聞代表、元国会議員、雑誌記者、そして元放送局プロデューサーが集まって現職大統領を始終一貫パロディにするポッドキャスト放送を始めた[7]。「私はみみっちい奴だ(나는꼼수다)」は2011年最大ヒット作として知られる程人気を呼んだ。彼らは、自らの放送をモバイルやウェブで聞けるようにポッドキャストを活用した[8]。
一週間に一度放送をしたが、これらの放送のダウンロード数が全世界で1位を占めるほど爆発的人気を得た。公開放送、海外巡演をし、想像もできないほどのファンダム(fandom)を享受することもした。パロディが主な内容だったが、現大統領の不正を告発するジャーナリズムの役割を担い続けた[9]。既存のメディアやジャーナリストは、「私はみみっちい奴だ」と対比されてより一層みずぼらしくなっていた。
ポッドキャストを活用した「私はみみっちい奴だ」の成功は多くのジャーナリストを刺激した。放送局から解雇された人々・自発的に退社した人々と、新しくて信頼でき、自身を代議してくれるメディアを探していた大衆とが、ポッドキャストを通じて出会うことになった。韓国大衆の75%が、モバイルフォンを所持しているという点を勘案すれば、モバイルプラットホームはすでに居間に置かれたテレビの水準である。ポッドキャストはウェブ上でも利用が可能で、クロームキャストのおかげでテレビでも視聴が可能だ。このように、多くの独立的なポッドキャスト放送が始まる。市民が財政を支援し、報道機関から追い出された専門記者、プロデューサーがニューメディアを活用して独立的な新しい放送局を立ち上げる。「ニュース打破[10]」「国民TV[11]」「告発ニュース[12]」が代表的だ。
「ニュース打破」は、放送局の元および現職ジャーナリストが集まって深層取材報道をする専門放送だ。国内報道機関では唯一、グローバル調査ジャーナリズム・ネットワークに加入している。代表のキム・ヨンジン記者はKBSの代表IR専門記者であり、アンカーを引き受けるチェ・スンホPDはMBCの看板深層プログラムだった<PD手帳>出身だ。他にもKBS,MBC両公営放送のエリート記者たちが放送局を出て合流した。2014年7月現在、36,140人の会員が財政支援をしている。 スタートと同時に既存人員の他に新入記者を選抜し、現在、1週間に2回アップロードをしている。 ポッド・キャスト、ユーチューブ、ポータルサイト、アプリケーション等を通して視聴が可能だ。第11回宋建鎬(ソン・ゴノ)言論賞など韓国の多くの言論賞を受賞した。
「国民TV」は、国内最初の協同組合放送だ。2012年12月19日の大統領選挙が終わった後、選挙と韓国社会の監視機構の非公正性に不満を抱いた人たちが協同組合として設立した放送だ。初めにはポットキャストのラジオ放送から始まった。引き続き18時間ストリーミングサービスでラジオ生放送を実施した。2014年4月1日から毎日午後9時から1時間の映像ニュースを始めた。「私はみみっちい奴だ」のキム・ヨンミンPD、YTNから解雇されたノ・ジョンミョン記者、国民日報から解雇されたチョ・サンウン記者、そして新しく採用した新入PDなどが製作に参加している。2014年7月現在、組合員数は26,336人である「ニュース打破」が深層性に焦点を合わせた反面、「国民TV」はMBCおよびKBSニュースの代案の役割を自認している。
「告発ニュース」は2013年にMBCから解雇されたイ・サンホン記者が作った放送だ。この放送は主に告発に焦点を合わせている。既存の放送が簡単に流してしまう事柄に密着して視聴者たちが気がかりなことを解こうとする。特に、政治権力にいつでもマイクを突きつけて質問を投げかけるスタイルを得意としていて、少ない人材を勘案して特定の事案を持続的に取材・報道する長所を持つ。現在10,470人が後援している。
「ニュース打破」は「99%市民の公営放送」というスローガンを使う。創立したジャーナリストたちが、公営放送から解雇されたり退職したので、公営放送の精神をまともに生かすことに焦点を合わせているように見える。国民という用語をタイトルに付けている「国民TV」は、政治と資本からの独立を前面に出して強調している。「告発ニュース」は聖域なき報道を志向するというスローガンを掲げた。この三つは、すべて現在の公営放送が欠如していると見られる公営性、独立性を強調して市民の代議をすることに焦点を合わせている。この他にも、時事問題解釈放送、外交安保専門放送などいわゆる公共事案(public affairs)を開設する多様なポッドキャスト・ジャーナリズムが活動中だ。これらはほとんどの上記で紹介した媒体から影響を受けたものであると言うことができる。
過去の代案的なジャーナリズムに比べて、これらに対する信頼度は相当高い方だ 韓国の代表的ジャーナリズムである「オーマイニュース」が、市民が直接報道する市民ジャーナリズムを標榜したとすれば、この代案的独立メディアは、専門放送人が市民を代議することを選んだ。専門性、独立性、そして代議性を包括して信頼度を高めた。公共圏内の信頼度競争で先んじているので、既存ジャーナリズムに緊張を作っている。これらがフェイスブックやツイッター、アプリケーション等を通して爆発的な普及力を持つにつれ、すぐに大衆によって比較されるという点で緊張は避けられない。2014年6月にKBS社長を退陣に追い込んだゼネストの背景にも、このような緊張が大きい役割をしたと考えられる。
後援者あるいは組合員として報道機関に発言することができるようになり、市民は代議を受けられるという自信を持つようになった。数多くの情報提供があり、既存の放送局との情報競争で勝るという成果を上げることもした。代案的であり独立的なメディアは、市民に政治的効能感(Political Efficacy)を提供している。それだけでなく、豊富な情報提供などを基盤として特ダネをスクープすることによって「議題設定者」の役割を遂行した[13]。
1988年に国民株新聞として誕生した『ハンギョレ新聞』、2000年にインターネット市民メディアとして誕生した「オーマイニュース」、そして2011年以後に新しく誕生するポッドキャスト。韓国ジャーナリズムの公共圏には、ほぼ10年周期で新しい形態の注目するべき代案的で独立的なメディアが誕生した。紙からインターネットへ、インターネットからモバイルへ移る技術的変化を基盤としている。また、それぞれは政治的地形変化に影響を受けて作られたという共通点を持つ。そして、言論専門職に対する社会的認識の変化ともかみ合っていたりもする。代案的メディアの登場は、このようにジャーナリズムを取り囲む多様な場(field,場)が重複決定(Over-determination)しながらなされる。代案的ジャーナリズムの登場を韓国ジャーナリズム環境の変化兆候として読むことは、そうした点で正当に見える。
[1]ここでは、メディアを「ジャーナリズム性を持ったメディア」と規定する。
[2]PR会社のエーデルマン(Edelman)による信頼度地表調査で韓国メディアの信頼度は2008年以後60%、55%、50%、44%というように下落を記録する。
[3]彼・彼女らは、‘Rich Media,Poor Democracy"というスローガンの下、李明博政権の言論弾圧に反対してフォーラムを結成した。
[4]セウォル号事件の間、jTBCは最も注目されるチャンネルになった。元MBCアナウンサーであったソン・ソッキ(손석희)がjTBCの報道担当社長へ席を移してアンカーをしている。それだけ既存ジャーナリズムに対する不信は高まっている。
[5]「キレギ(가레기)」は記者(기자)とゴミ(쓰레기)の合成語である。
[6]韓国記者協会でジャーナリストを対象に行った2013年調査で、二大公営放送局の一つであるMBCは影響力0.7%、信頼度0.5%という評価を受けた。
[7]彼・彼女らは自分たちの放送を「閣下憲政放送」と称した。李明博大統領の政治スタイルに対するパロディを通じて、大統領が国家経営を私的事業と感じていることを表わした。
[8]ポッドキャストは通信の領域に属するので地上波、ケーブル放送が受ける内容審議を受けない。放送内容は事後審議を受けることになっているが、ポッドキャスト放送は放送法において放送として分類されておらず、審議の対象にならない。
[9]2011年全国言論労働組合は「私はみみっちい奴だ」を第23回民主言論受賞者として選定した。既存メディアがやり遂げられなかった役割をやり遂げたことが選定理由であった。
[13]「ニュース打破」は2013年6月15日に記者会見を行い、国際調査報道ジャーナリスト協会(ICIJ)を通じて、単独で取材した租税回避財産を公開した。新生報道機関が記者会見をし、既存報道機関がそれから情報を求める珍しい風景が広がった。
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